月刊現代

平成17年11月号


ムネオの野望、新党大地の可能性


魚住昭

「旭川の皆さん、こんにちは!新党大地から比例区で立候補させていただきました田原香里です。新党大地は北の大地・北海道で生まれた市民政党です。私はアイヌ民族の血を引いて、社会的弱者の気持ちをわかっているつもりです。しかし、いま小泉総理の進める弱肉強食路線、地方切り捨てで、私たちすべての道民が社会的弱者、経済的弱者にされていると思いませんか!」

選挙カーの上でトップバッターの田原香里の街頭演説が始まった。


先住民族の権利

彼女らにとって鈴木はアイヌ文化の振興をうたうアイヌ新法の制定(1997年)に尽力してくれた恩義のある政治家である。
田原が最終的に出馬を決意したのは鈴木の姿勢に感動したからだ。アイヌ民族の権利擁護を公約に掲げた政党はこれまでにもあったが、いつも「してあげる」という発想だった。鈴木のように「一緒に政治をやろう」と声をかけてくれた政治家はいなかった。

アイヌ新法で達成できなかった民族の悲願があることも出馬の理由の一つだった。その悲願とはアイヌ民族が北海道の先住民族である事実を政府に認めさせ、先住民族としての権利を確立することだ。鈴木はそれを実現するため「『先住民族の権利に関する国際連合宣言』の早期採択」を新党の公約に掲げようと言った。彼女も選挙を通じて民族の思いを人々に伝えることができれば、それだけで意味があると考えるようになった。


北海道原理主義

松山(千春)の演説や歌にこめられているのは北海道の精神的・経済的自立を訴えるメッセージだ。松山は新党の名付け親であるだけでなく、生みの親でもあった。「大地に還り、大地に学ぶ」という新党のスローガンも、基本理念である北海道原理主義(=地域主義)も松山が長い間温めてきたものだった。


「小さな政府」競争

私が鈴木の選挙の取材をしたいと思ったのも、この地域主義(リージョナリズム)の理念に惹かれたからだ。地域政党はヨーロッパにはあるが、日本では沖縄社会大衆党以外に例がない。これはひょっとしたら政治の閉塞状況に風穴を開けることになるかもしれないと直感的に思った。

小泉政権の発足以来、自民党は「聖域なき構造改革」と称して「小さな政府」路線を走ってきた。対する民主党も細かな政策の違いはあっても「小さな政府」を志向する点では同じだ。私に言わせれば「小さな政府」とは「貧乏人や市場競争に勝ち抜く能力のない者の面倒は見ませんよ」という宣言に他ならない。どちらの政党を選んでも行き着く先はひどい格差社会である。

そして自民党や民主党の「小さな政府」路線を後押しするのは米国発のグローバリゼーションだ。グローバリゼーションの大波は都会の富裕層をさらに富ませる一方で、地方の零細企業や店員、農民らに襲いかかり、彼らの暮らしを根こそぎ破壊している。その大波を押し返すには、地方の利害を前面に押し出し、独自の発展を志向する地域主義しかないのではないだろうか。


『国家の罠』が与えたヒント

対ロ外交で鈴木のパートナーだった元外務省主任分析官・佐藤優の著書『国家の罠』(新潮社刊)によると、鈴木が小泉政権下で「政治権力をカネに替える腐敗政治家」と断罪されたのは、鈴木の政治家としての役割が弱い地域の声を汲み上げて政治に反映させ、公平配分を担保することだったからだ。小泉政権としては「地方を大切にすると経済が弱体化する」「金持ちを優遇する傾斜配分に転換するのが国益だ」とは公言できない。しかし「ムネオ型の腐敗政治を断絶する」というスローガンならば国民の拍手喝采を受け、腐敗政治を根絶した結果として、ハイエク型新自由主義、露骨な形での傾斜配分への路線転換ができる。結果から見ると三年前のムネオ疑惑はそういう機能を果たしたという。


草の根の保守

「正攻法で、筋論でいくんだ」という言葉を聞き、彼の狙いが分かったような気がした。すでに触れたように彼は小泉構造改革・新自由主義路線への対抗軸として北海道の独自性にこだわる地域主義を掲げた。その北海道は本州や九州から渡ってきた移民たちがアイヌを追い出し、アイヌの森林や原野を切り開いてつくったものである。そうした歴史をきちんと見据え、アイヌの視点を組み入れるころができなければ本物の地域主義政党たりえない。そう考えたのだろう。

私の目には鈴木は自らを育んだ北海道の風土にもう一度戻ろうとしているように見えた。それは土着性への回帰と言ってもいいだろう。彼も、彼の支持層である零細業者や農漁民たちも等しく移民の末裔である。


ここだけに吹いた風

もともと道内には「幹事長と閣僚二人を出しているのに景気は良くならない。北海道の一人負けだ」という不満が渦巻いていた。そこにムネオ新党が出現したことで選挙情勢が大きく様変わりしたのであろう。本部の取材に来た地元紙の記者は「ここだけ全国とは違う風が吹いている」と私につぶやいた。

そう、北海道に吹いたのは新しい風だ。もしかしたらその風が沖縄やその他の地方に及び、草の根の保守層を巻き込みながら、日本列島を席巻する日がやって来るかも知れない。そんな予感が胸をよぎった。

【平成17年11月号月刊現代より記事の一部を抜粋】

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