朝日ヘラルド・トリビューン

 二〇〇五年十月十日


「官邸主導外交で北方領土問題を解決せよ」
衆議院議員 鈴木宗男

十一月に予定されているプーチン大統領の公式訪日をにらみ、クレムリンが重要なシ グナルを出している。本紙十月一日朝刊(東京本社版)は「ロシア政府は、北方領土問 題で、四島がロシアに帰属することを確認する平和条約を結ばなければ、五十六年の日 ソ共同宣言で約束した歯舞、色丹二島の引き渡し交渉に応じないとの方針を固めた」と 報じた。九月二十七日にプーチン大統領はテレビ番組で国後島住民の質問に答え「四島 はロシアの主権下に置かれている。この点について議論する用意は全くない」と述べた。

最近の日露関係を見ると外務官僚がロシア側のシグナルを正確に受け止めることがで きず、政治レベルに情報が上がらないため、まともな首脳外交ができないという状況に 陥っている。ロシアのシグナルに対し、小泉純一郎総理、町村信孝外相が有効な反論を 加えている形跡は認められない。外国首脳が日本の国益に反する発言をした場合、日本 側が黙っていると半ば認めたことにされてしまう。

過去三年間、外務省は「東京宣言至上主義」という陥穽に自ら落ちていった。その結 果、北方領土交渉は膠着状態になった。「東京宣言」(一九九三年)で日露両国は北方 四島の帰属問題を解決して平和条約を締結することを約束した。過去三年間、小泉総理 、川口順子前外相は「東京宣言に基づき四島の帰属問題を解決して平和条約を締結する 」との言明を繰り返した。

しかし、「四島の帰属問題の解決」と「四島の日本への帰属の確認」は本質的に異な る。「四島の帰属問題の解決」ということならば論理的には五つの場合(日4露0、日 3露1、日2露2、日1露3、日0露4)がある。もちろん四島の日本への帰属を確認 して平和条約を締結するというのが私の一貫した立場だが、「東京宣言」を何百回確認 しても四島が日本に返還されることにはならない。今回、プーチン大統領が出したシグ ナルは、「露4、日0という形で帰属問題を解決すれば、無償で色丹島と歯舞群島と貸 与する」という案で、日本としては受け入れることができない。しかし、このような提 案も「東京宣言」に違反しているとはいえない。外務省が「東京宣言至上主義」に陥っ ていることを逆手に取り、ロシアはこのような逆提案をつくったのだ。

北方四島が日本領であるという方針は、日本国家の原理原則にかかわる問題なので譲 ることはできない。同時にきちんとした原理原則もつ国家はそれ以外の点では大胆な妥 協ができる。今回の総選挙で与党が総議席の三分の二を超える三二七議席を獲得したこ とで、小泉総理が大胆な首脳外交を行う環境が整えられた。客観的に見て北方領土問題 を解決する好機が訪れている。

ここで官邸主導外交を行うことが国益に適うと私は考える。外務官僚主導の「東京宣 言至上主義」から、森喜朗総理とプーチン大統領が署名した「イルクーツク声明」(二 〇〇一年三月)に小泉総理の指導力を発揮して舵を切り替えることだ。「イルクーツク 声明」で両国首脳は、「(五六年の)共同宣言が、両国間の外交関係回復後の平和条約 締結に関する交渉プロセスの出発点である基本的な法的文書であることを確認した。そ の上で、一九九三年の日露関係に関する東京宣言に基づき、択捉島、国後島、色丹島、 歯舞群島の帰属に関する問題を解決することにより、平和条約を締結」することに合意 している。これはプーチン大統領自身の約束だ。私自身が交渉に関与したイルクーツク 日露首脳会談の経緯において、ロシア側が歯舞群島、色丹島の主権がロシアにあるなど という乱暴な主張をしたことは一度もない。イルクーツクの精神に日露双方が戻るとこ ろから現実的北方四島返還への道を拓くことができるると私は確信する。

【朝日ヘラルド・トリビューン 二〇〇五年十月十日脱稿】

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